学芸だより

楝(あふち)のはなし


   五月から六月にかけてふれあい館の体験学習広場に薄紫色の小さな花を咲かせる木の姿が見られます。楝(あふち)と呼ばれるこの木は、『万葉集』や多くの文学作品に登場しています。その一つ、平安時代の随筆『枕草子』の「木の花は」の段に「木のさまにくげなれど、楝の花、いとおかし。かれがれに、さまことに咲(さき)て、かならず五月五日にあふも、おかし。」とあり、楝の姿とともに、「五月五日」に合わせて咲くのも面白いと言及しています。なぜ「五月五日」と具体的な日付が出ているのでしょうか。
   このことについて江戸時代の国学者・北村季吟(きたむらきぎん)の注釈書『枕草子春曙抄(まくらのそうししゅんしょしょう)』に、「證類本草云、 五月五日俗人取樗葉佩之避悪気。今も田舎には端午に、せんだんを軒にかざす事あり。」とあり、五月五日には楝の葉を軒先につるすことで悪い気を避けようとする習慣があったようです。また、端午の節句で食べられる「粽(ちまき)」の由来となった中国の屈原(くつげん)の伝説にも、楝の葉が登場しています。端午の節句は、平安時代に日本に伝わって来ているため、『枕草子』の作者である清少納言も、この話を知っていたのかもしれません。
   太宰府市内には、ふれあい館の他にも楝の木がいくつか植えられており、その姿を見ることができます。楝の花が咲くその姿を探してみてはいかがでしょうか。また、ふれあい館の解説シートでも楝についてご紹介しています。興味のある方は、ぜひご覧ください。


学芸員 後藤夏実
 
 



花を咲かせる楝
花を咲かせる楝